朝の一時


目を覚ませば、室内には朝日が差し込んでいた。

……もう朝か。良く寝たな。
ペトラが傍にいると、その温もりの所為か眠りが深くなっちまう。
リヴァイは胸に頬を寄せて眠るペトラを抱き込む腕を緩め、その顔を眺める。
明るい色の髪に手を伸ばして滑らかな感触を楽しみ、髪から頬へと指を滑らせ頬を撫でてもペトラはすやすやと眠り続けている。
いつものように目を覚ますまで優しく甘い匂いを思う存分胸に吸い込み、無防備な寝顔を満喫するつもりだが、寝言で名を呼ばれると、ペトラの夢の中の自分にムカついてまた無理矢理起こしてしまうかもしれない。
だが、今日は大丈夫なようだ。

「ん……」
睫毛を震わせながら瞼を開けたペトラは、俺を瞳に映した瞬間に蕩けそうな笑顔を浮かべ、すぐに昨夜の行為を思い出したのか頬を染めて視線を彷徨わせる。こんな初々しい反応を見逃せるか。これだから、ペトラより後に起きる気にはなれん。
「……リヴァイ兵長」
「なんだ」
「おはようございます」
「ああ。……おはよう」
額を合わせて答えれば、ペトラが小刻みに震える。
「ふふっ」
「どうした」
「幸せだなぁ、って。夢みたい」
しなやかな腕が伸びて首に絡みつき甘い吐息が耳をくすぐる。
リヴァイは唐突に沸き起こった衝動に逆らわず、ペトラの顎を持ち上げ口づけ、何度も角度を変え満足するまで深く貪ってから解放してやる。
「夢じゃねぇ、分かったか」
唇が触れそうな位置で言ってやれば、ペトラは小さく頷いた。

これがもし、リヴァイの見ている夢だとしたら、起きた時の絶望はどれ程のものだろうか。
現実の二人が未だに只の上司と部下の関係だったとしても、ペトラを手に入れる幸せを知ってしまったリヴァイは夢を現実にしようと行動するだろう。
らしくない考えが頭を過ったが、それを振り払うようにリヴァイは起き上がり、ベッドの傍に脱ぎ散らかした服に手を伸ばした。

着替えている最中顔を赤らめて目を逸らしていたペトラは、今は胸元までシーツを引き寄せながらリヴァイを睨んでいる。が、全然怖くない。いや、むしろ……
「着替えたいから、あっち向いてください」
「嫌だ」
反応が面白いのでそう言ってやると、ペトラはシーツを体に巻き付け、裸足のまま床に降りる。ペトラの服と下着は、ドアからベッドに辿り着く間にリヴァイが脱がせて放り投げた順に落ちている。
昨夜のリヴァイの余裕の無さを示すそれらを、ペトラは包まったシーツの裾を引きずりながら全て拾い集めてから振り向いた。

「そのままで部屋に帰るのか」
「そんな訳ありません」
むっ、と頬を膨らませたペトラはリヴァイの傍まで近づき、纏っていたシーツをリヴァイの頭に被せた。
「何しやがる」
「私が良いって言うまで被っててください」
「勝手な事を言うな」
「きゃー」
シーツをひっぺがすと、裸のままのペトラは悲鳴を上げて座り込む。そこまで嫌がられると、傷つくじゃねえか。
「悪かった、見ねぇよ」
再度シーツを被り立ち尽くすとの間抜けな姿を晒していると、衣擦れの音が聞こえてペトラが服を着ようとしているのが分かった。
気配と音だけってのは、実際着替える姿を目にするよりエロいんじゃねぇか? 何かのプレイかこれは。そんな事を考えていると衣擦れの音が止まった。
終わったのか。何故か安堵していると、シーツを取り去られた。
「先に食堂に行ってますね、兵長」
そう告げながらシーツをたたむペトラの顔は、有能な部下としてのものに戻っていた。
俺も、先程までの甘い空気に浸るのは止め、上司としてペトラに接する。

何時まで上手い事気持ちを切り替えれるかは不明だが、兵士として俺の傍に居たいとの願いがペトラの中で一番な間は、俺はそれを尊重するつもりだ。
だが、男としてよりも上司として求められている度合いの方が高いのは、どうにも納得がいかねえな。

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