形のない贈り物
「リヴァイおたおめ〜 これ、プレゼント。我が調査兵団が初めて捕獲した記念すべきあの巨人モチーフの抱き枕…」
バターン。
ハンジ分隊長によって開けられたドアは、開くとすぐにそこへ向かって歩いて行った兵長の蹴りで乱暴に閉じられ鍵も下ろされた。
二人でソファに並んで座ってたの、分隊長から見えてたかな。私がそっと気配を殺しているとドアがドンドンと乱暴に叩かれる。
「ちょっと、せっかく誕生日プレゼントを持ってきたのに何その態度。鍵まで閉めんな。開ーけーろー」
「何がプレゼントだ。嫌がらせの間違いだろーが」
「三十路かつ独身の寂しいオッサンにお似合いのアイテムだと思ったんだけど」
「そうか。ならてめぇに似合いの蹴りをくれてやる」
「私は誕生日でもないし、慎み深いから遠慮するよ」
ドア越しに遣りあうリヴァイ兵長とハンジ分隊長の会話にペトラの目は大きく見開かれた。
今日が兵長のお誕生日だったなんて。私はちっとも知らなかった。
Ver1
プレゼントはドアの前に置いておくからと言って分隊長が去った後、眉間に皺を寄せてソファにどさっと乱暴に腰を下ろした兵長の様子をそっと伺う。
「今日、兵長のお誕生日、だったんですね」
「こんな年んなったらな、今更誕生日なんかどうでもいいんだよ。……お前との年の差も開いちまうしな」
ぼそりと付け加えられた一言に私はとても驚いた。
年の差の事を気にしてるのは私だけかと思っていたから。いつだって余裕のある彼に私が敵う事なんて何一つなくて。
でも、誕生日……
「何を考えてる?」
「プレゼント、用意したかったな。って」
「そんなことか、くだらねぇ」
「くだらなくなんかないです。兵長が生まれた日なんですよ、私にとっては重要です。分隊長みたいにプレゼント用意したかったです」
「俺は、こうしていれるだけで充分だがな」
私が淹れてから時間が経ってしまった紅茶を一口飲んでからそんな事を言うなんて。兵長って、ぶっきらぼうなのに時々凄く甘い言葉を私にくれる。その度に私の鼓動は速まって心が乱される。
「兵長」
「ん?」
「お誕生日、おめでとうございます」
「……お前に祝いの言葉を言われるのは悪くないな」
そういって抱き寄せてくれる兵長に、来年こそはプレゼントを用意しますって言葉は贈れない。次の壁外調査で生きて戻れるか分からない私にとっては、こうして一緒に過ごせる一日一日が記念日かもしれない。
広い胸にぎゅっと顔を押し付けただ願う。
次の年もその次の年もずっとずっと、私が傍にいなくてもいいから兵長には誕生日を迎えて年を重ねて欲しい。
「お前の誕生日はいつだ」
「……秘密です。兵長みたいに当日に教えますね」
「俺は聞かれなかったから言ってなかっただけだ」
兵長に嘘は吐かせたくない。だから私の誕生日は教えれません。その日を迎えれたらちゃんと教えますからそんなに機嫌悪くしないでください。誕生日なんですから。
「まあいい。当日でもな」
くしゃりと柔らかく頭を撫でられ、その心地好さに浸りながらも、心を覗かれたような気になって私はただ無言で頷くしかできなかった。
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Ver2
「明日、暇なら俺の部屋に来い」
昨日私にそう告げた兵長は生まれた日を私と過ごす事を望んでくれたんですか?
勝手な推測をして自惚れてもいいですか?
想いを交わせただけで奇跡のようだったのに、共に過ごす時間が積み重なる度に私は欲張りになってしまう。
「兵長、ごめんなさい。私、知らなくて、何も用意できてなくて」
ドアの前に立つ兵長の背に後ろから抱きついて謝る。
「謝る必要ねぇだろ」
「分隊長がプレゼント用意してたのに、私は何も用意してなかったなんて悔しいです。私だって兵長に何か渡したいです」
重い女だって思われたくないから普段は嫉妬心なんて絶対見せないのに、つい口から本音が出てしまった。
我に返って腕を離し、すたすたとソファに戻って腰掛けて俯いてると、外で騒ぐ分隊長を放置して兵長が私の前に座り込んで見上げる。
「……さっきの発言が本気なら、お前の未来を俺に寄越せ。人類に捧げた心臓以外の全てもだ」
そんなの……。
「……そんなの、とっくの昔にあなたに捧げてます」
今まさに早鐘のような鼓動を打ってる心臓だって、本当はあなただけに捧げたいんです。
「そうか」
目を細めた兵長がぼやけて見える……
穏やかな表情をもっと見ていたいのに、ずっと見ていたいのに、勝手に溢れる涙が私の瞳に膜を張って視界を滲ませる。
目、閉じたくないのに。
閉じると同時に零れた雫は、兵長の手に優しく拭われた。繊細な動作に、酷く大切に扱われてるように感じてもっと涙が溢れる。
私が涙を見せるのは兵長の前だけです。弱さも受け止めてくれるって知ってしまったから。これ以上何一つ背負わせたくないって思ってた私なのに。
「兵長」
「……なんだ」
「お誕生日、おめでとうございます」
「ああ」
「特別な日を一緒に過ごせて嬉しいです」
「そうか」
「もう少ししたら泣き止みますから、待ってください」
「……どうせこれからもっと泣かすんだ、気にしねぇ」
「えっ」
目を擦ってた手を取られたと思ったら、次は抱えられてベッドまで運ばれた。
「一応確認するが、お前は俺の物なんだよな?」
反射的に頷くと。
「ありがたくいただく」
「……っ」
今更意味を理解してももう遅くて、私の体は兵長の体重を受け止めさせられた。
きっと今晩も、私は酔わされて縋って強請って、ただあなたに翻弄される夜を過ごすんだ。
でもそれが彼の望みなら、私は全てを暴かれてもいい。私自身も知らない私を知ってるのはあなただけだから。
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