捧げるのは


明け方、不意に目が覚めた。
陽が昇りかけているらしく、カーテンの隙間から白い光が室内に注がれている。
ぼんやりとした意識のまま、ペトラは自分の頭を左腕に乗せて静かな寝息を零すリヴァイの寝顔を見つめる。
幾度も共に夜を過ごしたが、リヴァイよりも先に眠りに落ち、起きるのは後なのに今日に限ってどうしてだろう。
でも、彼が眠って意識の無い今は、こんな至近距離でも心乱されずにじっくりと落ち着いて顔を眺めれそう。
「リヴァイ兵長、大好きです」
そっと呟き、頬に唇を押し当てた。その後は胸元に潜り込み、大胆にも逞しい胸板に頬を擦り寄せ、がっしりとした二の腕を指先で突いてみたりと、普段はとても出来ない事をしまくる。
「なに悪戯してやがる」
低い声に恐る恐る顔を上げると、完全に覚醒した状態のリヴァイが目に飛び込む。
「もう目が覚めたってことは、加減しすぎたのか。足りなかったんだな?」
「いえ、じゅーぶん足りてます」
半身を起こしたリヴァイの瞳に欲望を感じ、咄嗟にくるっとうつ伏せになって視線から逃れようと身を縮める。
「ごめんなさい。許して」
「許さねぇ」
そんな、と思っているとペトラの背中にリヴァイの唇が落とされる。
「あっ……」
吸い付かれる度に体が勝手に反応して揺れる。熱い息を吐き甘い疼きに耐えていたら、簡単に仰向けにされて組み敷かれた。
「明るいから、や、です」
暗闇の中でも羞恥心は消えないのに、こんなの耐えれない。
「安心しろ。そんな事気にならん程悦くしてやる」
全然安心できません。そう抗議しようとしたのに、覆い被さって来たリヴァイに唇を塞がれる。
やだ、恥ずかしい。見られたくない。
「抵抗すんな」
リヴァイの目を塞ごうと伸ばした手は掴まれ、両手共に指を絡めながらシーツに押し付けられた。
「見ないで、下さい」
「俺は見たい」
首を捻って横を向いていても強い視線を感じていたたまれない。
「消えかけている痕もあるな」
そう言ってリヴァイはペトラの項に吸い付き、満足そうに口元を緩めてから胸元に顔を埋めた。
あ、まただ……
ちくりと、左胸に軽い痛みが走る。
ペトラがリヴァイに抱かれるようになってから、体の様々な場所に情痕を印されるが、心臓の上から痕が消えた事は無い。薄まる前に色を重ねられるから。
まるで心臓を人類に捧げている事を咎めるかのように、リヴァイは執拗に痕を刻む。
心臓以外は全てあなたに捧げているのに。
こんなに所有欲が強いなんて、只の上司と部下の関係だった時は知らなかった。他の男の人と話しているのを見られたら、その後機嫌が悪くなった事もあるし。意外だったけど、そんなとこも好き。それだけ想ってくれてるんだと嬉しくて。
「何を考えている、ペトラ。集中しやがれ」
痛っ。噛まれた……
「へい、ちょうの事、考えてました」
「……何度言えば分かる? リヴァイと呼べ」
「リヴァイ、兵長」
「兵長が抜けてねぇが、まあいい」
頬に軽い口づけを落とされた。
あなたが望むなら、心臓も捧げます。そう言える日が来る事を願いながら、再度名を呼ぶ。
「リヴァイ、さん。好きです」
「知っている。が、想いを告げられるのは、何度目でも悪くない」
満足そうに軽く目を細めたリヴァイに、機嫌が直ったかと安心して微笑む。
「ペトラ、今日は休みだろう。起きれなくても問題無いな」
問題ありまくりです、と言い返そうとしても、不埒に蠢く指と唇にペトラは翻弄され、唇からは甘い嬌声しか出てこなかった。

 back top