• カテゴリー小話

拍手に置いてた小話達の扱いに困っていたけど、カテゴリー小話を作ったのでこちらに置こうかなと。

 

 

良い香り……
ティーポットから温めていた別のポットに注いだ紅茶から立ち上る匂いと綺麗な色にペトラの顔は綻ぶ。

今日兵長が扱う書類の量は多かったから、その間に喉を潤すお茶はカップ一杯じゃ足りないだろうと多めに用意した。手作りのカバーをして中身が冷めにくくしたポットとカップをトレイに乗せて兵長の部屋へと向かう。

リヴァイ兵長にお茶を供したあと、一口飲んで僅かに目を細める姿を見るのが好き。

部屋の前に着いてドアをノックすると。
「ペトラか」
ノックの音かリズムか、それともその両方の組み合わせで分かるのか、いつからかペトラはリヴァイの部屋へ入る前に入室の許可を願う言葉を発することはなくなっていた。
それどころか。

「入れ」
今みたいに彼自らドアを開けてくれる事もある。
「ありがとうございます」
「ん」
すたすたと机に戻り座った彼の前にトレイを置いてポットから紅茶を注いで。
「ポットの中にまだ入ってますから、何杯かはお代わりができますよ」
冷めないようにカバーを掛けて伝えると。あれ、兵長の眉間に皺…何か機嫌を損ねるような事したかな……

「何度も茶を頼まれるのが面倒だからか」
「違います。お茶を飲みたくなる度に私を探されるって聞いたので、お忙しい兵長の時間を潰させる訳にいかないと思って」
「そうか。ならいい。……おい、お前を探すとか誰に聞いた」
「ハンジ分隊長からお聞きしましたけど何か?」
「ちっ、あのクソメガネ…… お前の淹れる茶が美味すぎるのが悪ぃんだ」
「不満があるのでしたら、」
「ちげぇよ。不満なんかねぇ」
ポットとカップを下げようとした腕は、不機嫌さが増して額に深い皺を寄せた兵長に咎めるように掴まれた。
「飲むから下げるんじゃねぇ」
「申し訳ありません。あの、手を、離していただけませんか?」
「嫌だと言ったらどうする」
さっきまで機嫌が悪かったのに、今の兵長は何だか凄く楽しそう。部下を苛めて書類相手のストレス発散してるのかな……
「どうもしません」
本当にどうしようもないからそう言ったら、兵長の顔がつまらなそうになった。
「ちっ」
その反応にくすくすと笑い声が漏れてしまった私は兵長に睨まれたのに怖いと感じずにどうしてか楽しくなってしまう。
「笑ってんじゃねぇよ」
手を離されたけど、今まで感じていた生地越しの温もりが冷めてくのが少し寂しいなんて。

「お茶を用意するのは面倒ではないので、いつでも申し付けてくださいね」
「ああ、そうする」
頷いた兵長はカップをいつもの独特な持ち方で飲んでくれた。緊張の一瞬だけど、今回も味に満足してくれたみたいで良かった。
私は今日も大好きな時間を過ごせた事が嬉しくて、微笑みながら退室した。

兵長の休息の一時に僅かな言葉を交わすのが、いつまでも私の役目であって欲しいなんて身の程知らずな願いだ。けれど兵長が私のお茶を望んでくれる限りは誰にも譲らなくていいですよね?