• カテゴリー小話

上司と先輩の二人の密やかな逢瀬をエレンは偶然とはいえ見てしまった。
その後の午後のお茶の時間では、見られていた事に気づいていたにも関わらず平然としているリヴァイと、何も知らずいつもと変わらない優しい笑顔のペトラがいて。
さっきまで甘い空気に浸っていたのに、今では上司と部下のしての立ち位置にいる。
二人とも大人だなぁ。妙な感心をしながら楽しそうに全員分のお茶を淹れて配るペトラをつい目で追っていると、オルオが隣に来てエレンの肩に腕を回す。

「何だエレン。さっきから露骨にペトラを見てるみたいたが、惚れたのか?」
「ち、違いますよ」
「そうか? まあ例え惚れたとしても、お前が相手にされる訳が無いぞ。この俺ですらそうなんだからな」
その言葉にどう返事して良いか分からず、エレンは曖昧に笑った。
確か、オルオさんは知らないんだよな。

そっとリヴァイの様子を伺うと、会話が聞こえていた筈なのに常と変わらずで、秘密を知ってしまったエレンの方がドキドキして挙動不審になっていた。
これって普通逆の反応するもんだよな……そう思っていると、いつもと違う様子を心配されたのかお茶を配り終えたペトラがエレンの額に手を当てた。

「体調でも悪いの?」
この手はさっき兵長に縋っていて、心配そうに俺の名を呼んでる唇はさっき兵長のくちび……うわぁああ。
内心の叫びが口から飛び出すのは防げたが、エレンは椅子を引き倒しながら立ち上がった。
「エレン?」
尚も心配そうにするペトラからエレンはじりじりと下がって距離を取る。リヴァイが剣呑な目付きで自分を見ている事に気が付いたからだ。

「ペトラ、エレンに構うな。大方急にクソにでも行きたくなったんだろう」
「へっ?」
「そうだよな?」
圧力を感じる程の目力を寄越され、エレンはひたすらに頷きながら食堂から飛び出した。

数十歩の距離を飛ぶ勢いで走って角を曲がった後でエレンはずるずると崩れ落ちるように座り込む。
兵長のあの態度ひょっとして……
いや、きっとそうだ。
ペトラがエレンに触れたのが、心配してくれたのが気に喰わなかったのだ。
兵長程の人でも嫉妬するのか。
人類最強の彼の以外な一面を見れた事実につい笑っていると。
「随分と楽しそうじゃねぇか。クソはもういいのか」
凍えそうな声と固まりそうな視線がエレンを襲う。
「リヴァイ、兵長」
「クソが出ねぇならさっさと戻れ。ペトラが心配している」
「はいっ」
勢いよく立ちあがってリヴァイの後に続きながら、その関心のかなりの部分がペトラに向けられていることに一種の感動を覚えていた。
凄いなペトラさんって。この兵長の心を……
ひょっとして人類最強ってペトラさんなのかもしれない。エレンは脳裏に浮かんだ考えに思わず笑いそうになるのを、目の前を歩くリヴァイの蹴りの威力を思い出してどうにか堪え、心配させた事を彼女に謝る為に彼に続いて食堂へと続くドアを通った。